十五の筆が綴る、はじめての夜。
小説13名、漫画2名。
十五人の書き手が、それぞれの「はじめての夜」を描いた百合の合同誌です。
発行 死地ノ雪 / 主催 死地ゆき
装丁
執筆陣敬称略
小説は、作品から選んだ七つの文。
漫画は、数コマ。
一人、また一人と、月が満ちていきます。
夏色
君のためなら
コマ 近日掲載
居夜ヤミ
つけて、証。
望月わんこ
「てか、別にほんとにやって見せる必要なかったんじゃね?」
いやいやいや。教えるって何を。ナニを!?
「あ。またブラしてない!」
覚悟を決めろ、酒寄彩葉。
あたたかい。やわらかい。……やばい、何やってんだ私。
現れたのは、すらりと伸びた健康的な太ももと、大手ファストファッションブランドで六枚千数百円の、シンプルなグレーのコットンショーツ。
「……なんか、ちょっと恥ずかしいね?」
私はかぐやの頬にそっと手を添えると、赤くなった顔を隠さず、まっすぐにその瞳を見つめ直した。
カモカモ
ファイアダンス
——何でこんな子がずっと同じ空間にいて、私は今日まで正気を保っていられたのだろう。
いつも一緒にいるはずなのに、こんなかぐやを見るのは初めてだった。——いや、本当のところは、私の方がそれに初めて気付いてしまったのだろうか。
大きな紅い瞳の中に、私の顔がちょうど収まっている。
「…………分かって言ってるの?」
私はまるで見えない糸に引かれるようにして、或いは月の引力に導かれるようにして、かぐやの元へと擦り寄るようにして再び近付いていく。
「変な気分になってる彩葉、見たい」
無我夢中だった。私はほぼ無意識の中、ただ弱々しく、それでいて何度も首を縦に振る。
鳴沢沙羽
もし言葉、紡げたのなら
帰らなければ、帰さなければ。そんなことを本気で考えてしまっている私は、きっとどうしようもないほどに子供だった。
かぐやは、完璧だった。そんなかぐやから完璧を奪い去ってしまったのは、紛れもなく私だった。
ピースして、ちょっきんして、逃げようとしたかぐやを捕まえて、私はそのまま右手でかぐやの後頭部を引き寄せるように抱え込んだ。
そして『迷いに迷った』挙句、きらびやかなネオンの光が私たちの目を焼こうとしている、そんな空間に入り込んでしまったのもまた、『仕方ない』ことだった。
「えっへへ、彩葉とちゅーしちゃった。大好きな彩葉と、しちゃった」
「かぐや、かぐやに跡、つけちゃった。これでもう、かぐやは私のものって……」
「元はといえば彩葉が色気の欠片もない死装束みたいなかっこでかぐやに触ろうとしたからじゃん!」
古葉。
名前を呼んで
かぐやは……友達で、いつも私を引っ張ってくれて、二人ならどこまでもいけそうな、大切な人。
「びっくりしたぁ……。彩葉の話し方、全然違う……」
そうだよ、お兄ちゃん。私は……かぐやのことが好き。
今、目の間にいる、女の子。しかも宇宙人に……私は恋をした。
「かぐやだって、彩葉が好きだよ。彩葉の好きとかぐやの好き……同じ」
「かぐやとの初めてをここでしたけど。ここですることはないんだなって思って」
「だって、だってぇ……もっと彩葉の名前呼びたかったんだもん」
木乃酢
その愛の名前をまだ知らなくて
ただ、この「好き」にどんな名前を付ければいいのか、まだ決めかねていた。
だって家族愛を抱いた友人のようなこの同居人に恋を向けるのは良くない。
この好きを恋にしてはいけないと必死で目を逸らしていたのに、願ってはいけないと思ってたのに。
どうして恋と期待してしまうような好きを向けてくるのだ。
「あんなことされて寝れるわけないでしょ」
「だって! 彩葉がかぐやと同じ好きじゃないと思ったから……!」
「同じ好きって分かってドキドキしてる」
自然観
夏のおわりに
このままこんなふうにずっと隣にいられたら良かったけどさ。
じゃあよかった、なんて返したけど、笑った顔が少しぎこちない気がして妙に頭に残った。
「ねえいろは、一緒に逃げちゃおっか」
今日の彩葉はどれとも違って少しセンチメンタルで、なんだかいつもの私みたい。
「りょうかーい、ここ温泉あるんでしょ行きたい」
ふと、あれが脳裏によぎった。月に帰っちゃう前のひとつだけ心残りなこと。
彩葉は眠くなってきてるっぽいけどいつもと枕が違うからか、なんだか私はうまく寝れない。
死地ゆき
心で触れた夜
七つの文 近日掲載
かがり
あなたの全部を、もう少し
「もっと、彩葉が欲しいなって……思っちゃって……」
——我慢してるのは、私だけだと思ってた。
仄かに『熱を帯びた』手指は、どちらのものなのかわからない。私の温度とヤチヨの温度が混ざり合っている錯覚に陥る。
「うん。彩葉の、ヤチヨにして?」
……あの、こんな可愛らしいおねだりに、頷く以外の選択肢、ある?
乱れた銀糸が白い敷布に映えて、脱げかけの黒Tシャツとドルフィンパンツという姿なのに、綺麗で目を奪われた。
「……ヤチヨ、大好きだよ。おやすみ」
ピアノロック・ヤクザ
熱のありか
「んー。今日もね、幸せだった!」
ただ一緒にいたくて繋ぎ止めたはずのこの手で、私はまた、かぐやに同じ思いをさせてしまう。
「……人と人との関係ってね、どんなに大事にしてても、いつかどこかですれ違って、簡単に壊れちゃうんだよ。」
「……やだ……っ、ほんとは、このまま……なんて、やだよ……っ」
離れた唇の間に銀色の糸が短く伸びて、そしてぷつりと切れた。
小さく開けたままの唇が、まだそこに残る私の感触を確かめているように微かに震えている。
熱に浮かされた頭で、ただそれだけを思った。
印場 礼
タイダルバージン・ナイトウェーブ
改良式のKG型ボディに入ったヤチヨと、タケノコ人間になったかぐや、ようやく住み慣れたタワマンに二人が揃った今日この日こそが、私達の初夜なのだ。
かぐやには分かる、この顔はきっと川の字で寝る時どっちをどっちに配置するか悩んでるって表情だよ!
ずっと待たせちゃってごめん、上手くできるか分かんないんだけど、あの……抱き締めて、いいですか?
口付けの雨、睦言の洪水、幸せ過ぎて潤んで滲んでいく視界。
千代に八千代に二人分、途方もない愛が二人分、齢三十にも満たない只人の身体に降り注ぐ都合一万と六千年の想いの丈。
彩葉が、私と私を望んでくれたこと、涙が出ちゃうくらい嬉しかった。
好きで、大好きで、いつか必ずこの初めての夜を、本当の意味で初夜にするんだって心に誓った。
グランドマスター・リア
幸せにされちゃった
夜景の見えるレストランで、指輪と共にプロポーズ。
「宇宙で一番幸せな女の子になっちゃった♡あーあ、彩葉に幸せにされちゃった〜」
「もっと、幸せになってみない?」
さりげなく可愛いヒップラインをなぞる
「なんでか、わかんないんだけど……かぐや、服脱ぐの……恥ずかしい、かも……」
「脱いで」
素敵な初夜だったね。
たぬき
時計仕掛けの蜜月
「え、そっち? あの、やり方って」
データを記録、保存。解析して、次の行動を演算、実行。
知らないことをするんだ。
触覚を測定、記録、演算、実行。
「やー! かぐやは彩葉のかわいいとこたくさん知りたいの」
機械で制御された身体
「……ごめん、そんな身体にして」
酉乃
ずっと、あなたと
騒がしくて穏やかな時間に、抑えきれない熱が渦を巻いて、三つの呼吸が深くなる。
きっと夜闇に浮かぶ白い体も美しいだろうけど、今日このときだけは全てを余すところなく見て、覚えていたい。
きっと、止まるなら今だった。
やさしくできなくなるから。
その時の私は、いつも通りの私でいられるだろうか。
「……うん。私も、あいしてる」
「ずっといっしょだよ、いろは」
